サロンを長年経営する中で、今でも思い出すと胸がキュッとなる出来事や、お客様との忘れられない出会いがいくつもあります。
身体をほぐすだけでなく、「心」をほぐす仕事なんだと、セラピストとして背筋が伸びた瞬間がありました。
1. 最後に涙を流された、あるお客様のこと
ある日、とても口数が少なく、どこか陰のある雰囲気の40〜50代の女性がご来店されました。
施術中も何もお話しされず、静かに目を瞑っていらっしゃったお客様。すべての施術が終わり、最後に椅子に腰掛けていただいた状態で肩にふっと手を触れたとき、そのお客様が突然ポロポロと泣き始めてしまわれたのです。
「何か失礼なことや落ち度があったかもしれない…」と頭の中が真っ白になりましたが、その方は笑顔を浮かべながら、こう教えてくださいました。
「私、ずっと介護をしていて、本当に心身ともに疲れ切ってしまっていて…。今までこんなに誰かに優しくしてもらったことがなくて、本当に嬉しかったんです」
自分の手を通して届いた何かが、張り詰めていた誰かの心をふっと緩めた瞬間でした。施術者として、手から伝わる温もりの重みを深く感じた出来事です。
2. 施術と「笑い」の相乗効果が生む、サロンの空気
サロンには静かに癒やされたい方もいらっしゃれば、話してすっきりしたい方もいらっしゃいます。
私のお店では、ありがたいことにお喋りを楽しみに来てくださる方が多く、時にはサロン全体に「笑いの輪」が広がることもよくありました。
お一人のお客様が楽しいお話を始められると、周りのお客様も顔を伏せて施術を受けながら(目を瞑ったまま!)クスッと笑い出し、会話に参加される。究極の癒やしである「笑い」がサロンの空気をぱっと軽くして、お帰りの頃には皆様が意気揚々と明るい表情になられているのを見るのが、我がサロンの自慢でもありました。
おわりに:あの場所から、今のアタッチメントへ
体力も気力も全力で注いできたセラピストとしての仕事。人を雇い、スタッフを育て、お客様と向き合ってきたあの年月は、私にとってかけがえのない財産です。
今、私はサロンを離れ、施術者として現場に戻る予定はありません。これまで「人材の育成」に注いできたエネルギーを、今は「娘を育てること」へと移行しています。
形は変わりましたが、誰かの成長を見守り、心に寄り添うという意味では、私の中でしっかり地続きになっています。25年間のサロン経営で学んだ人の温もりや愛おしさを胸に、今日も目の前の娘との時間に全力で向き合っていきたいと思います。